こんにちは、ドクレイです。今回は、メタボや肥満において炭水化物がどのような影響を与えるいるのか、について書かれた論文を読んでみます。私が気になったところ、特に重要な部分のみを解説しているので、気になる方は是非論文を読んでみてください。それではよろしくお願いします。
論文の紹介
タイトル:Dietary carbohydrates: Pathogenesis and potential therapeutic targets to obesity-associated metabolic syndrome
ジャーナル:Biofactors
発表年:2022
URL(PubMed):https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36102254/
概要
メタボリックシンドローム(メタボリック症候群)は、肥満を土台として、高血圧、高血糖、高インスリン血症、脂質異常症などを認める症候群(病気の集合体)です。メタボリックシンドロームはなぜ悪いのか。それは、様々な病気の集合体であるメタボリックシンドロームが糖尿病や脳梗塞、脳出血、狭心症、心筋梗塞の原因となるからです。糖尿病は血糖値が慢性的に高くなっていることで、全身の血管が蝕まれます。目の血管が侵されると糖尿病網膜症、神経の血管が侵されると糖尿病神経症、腎臓の血管が侵されると糖尿病腎症になります。糖尿病腎症による透析導入率は年々増加しており、問題になっていることは有名です。
メタボリックシンドロームの原因は何なのか。一つの大きな原因として、血糖や中性脂肪、血圧を急激に上げるような砂糖が使われた食べ物の摂取が挙げられます。つまり、単純糖質の摂取が主要な一因とされています。糖質は大きく単純糖質と複合糖質に分けられます。単糖類であるグルコース(ブドウ糖)やフルクトース(果糖)、二糖類であるスクロール(砂糖、ショ糖)、マルトース(麦芽糖)、ラクトース(乳糖)は単純糖質です。一方、スターチ(でんぷん)やグリコーゲン、食物繊維は複合糖質です。複合糖質は消化に時間がかかるため、急激な血糖上昇を引き起こしにくく、安定したエネルギー源であると考えられます。
妊娠中の母体の状態が、子供に大きな影響を与えることは有名です。同様に、母体の体重増加は子供のに悪影響を及ぼします。つまり、妊娠中に単純糖質を過剰摂取すると、子供が将来的にメタボリックシンドロームを発症する可能性を増やします。また、良くない食生活や運動不足による小児の肥満は、遺伝的にもエピゲノム的にも相乗的に代謝に関連する遺伝子発現に影響を与え、大人になってからの高血圧や脂質異常、高血糖といった代謝異常に繋がる可能性があります。
遺伝因子、環境因子、生活習慣とメタボリックシンドローム
肥満の原因の40%以上は遺伝的因子で説明できるとされます。一方で環境因子や生活習慣が遺伝子の活性化に影響を与えます。エピゲノムとは、『どの遺伝子を使い、どの遺伝子を使わないか』、を決めるスイッチのような役割をしていると説明されます。DNAやゲノムは生まれた時から変化しませんが、エビゲノムは生まれた後も変化します。エピゲノムは、化学物質、ストレス、その他の外部の刺激などにより変化します。
砂糖入り飲料や、果糖ぶどう糖液糖が使用された食品、揚げ物といった食べ物。睡眠不足。社会的、経済的状態。環境毒(重金属、炭化水素、ベンゼンなど)。このような因子に子供の頃から暴露されていると、若年性のメタボリックシンドロームの原因となることが報告されています。
では、どうすればこのような環境因子が身を守ることができるのでしょうか。もちろん単純糖質を控えることは絶対に大事です。砂糖入りの飲み物、砂糖が使われた食べ物、果糖ぶどう糖液糖が使用された加工食品、揚げ物などは、極力避けるに越したことはありません。また、アブラナ科野菜のイソチオシアネート、大豆のイソフラボン、全粒粉のフィトエストロゲンなどのファイトケミカルは、エピゲノムに変化に保護的に作用する可能性が報告されています。また、腸内細菌叢の変化(dysbiosis)は脂質の吸収亢進と関連しており、肥満の原因になると考えられています。難消化性でんぷんであるレジスタントスターチや水様性の食物繊維は、腸内細菌の良質なエサとなるため優れたプレバイオティクスとされています。レジスタントスターチや水溶性食物繊維を摂取することで、腸内細菌の組成が変化、代謝が改善することが報告されています。
グリセミック指数(GI)とグリセミック負荷(GL)
グリセミック指数(Glycemic Index):食品に含まれる炭水化物50gを摂取した際の血糖値の上昇の度合いを、ブドウ糖を100とした場合の相対値で表す。GIが70以上の食品を高GI食品 56~69の間の食品を中GI食品 55以下の食品を低GI食品。
グリセミック負荷(Glycemic Load):ある食品に含まれる炭水化物50gを摂取する場合には、ある食品を1kg食べる必要がある。スイカで50gの炭水化物を食べようとすると、1kgのスイカを食べる必要がある。通常の食べる量に応じて調整されたものがGL。すいかのGIは72だが、GLは5。
GIおよび/またはGLが高いと、血糖値の急激な上昇を引き起こし、メタボリックシンドローム、糖尿病、心血管疾患の発症などのリスクが高くなることが報告されています。
食事療法
では、メタボリックシンドロームに対してどのような治療方法があるのでしょうか。一般的に、精製された炭水化物が少なく、カロリーが低く、食物繊維やレジスタントスターチを多く含む食事が推奨されています。具体的な食事療法として、ケトジェニック食、地中海食などが挙げられます。これらの食習慣を実践することにより高血圧、高血糖、高インスリン血症、脂質異常症などを含めたメタボリックシンドロームが改善することが多く報告されています。
最近では腸内細菌に影響を及ぼすレジスタントスターチや、薬理学的な効果を持つとされるファイトケミカル、プレバイオティクス・プロバイオティクスなどの治療効果が多く報告されています。レジスタントスターチは腸内細菌のエサとなる短鎖脂肪酸を産生し、腸内細菌の組成を変化させることにより代謝の調整、食欲の調整、抗炎症作用、インスリン感受性を改善させます。また、ファイトケミカルには抗酸化作用、抗肥満、抗糖尿病、抗炎症、抗動脈硬化、抗癌作用など多くの健康効果が報告されています。
さいごに
様々な研究から、糖質と肥満、糖質とメタボリックシンドロームについてはとても強い関連があることが示されています。炭水化物の全てが悪いとは言い切れませんが、単純糖質の過剰摂取が様々な問題を引き起こしていることは明白です。