長寿県・沖縄はなぜ短命化したのか|医師が現地で見たこと
こんにちは、やす先生です。
先日、沖縄に行ってきました。空港の近くで沖縄そばを2杯、別々の店で食べました。1杯目は豆腐の入ったもの、2杯目はソーキそば。どちらもおいしかったです。
ただ、店を出て通りを歩きながら、少し引っかかることがありました。目に入ってくる風景が、本州とほとんど変わらなかったのです。
この記事で分かること。
- 沖縄が「長寿日本一」だったのはいつまでか
- 順位が落ちた背景に何があったのか
- なぜ「沖縄の長寿食に学ぶ」というアプローチが的外れなのか
- 私たちが実際に運用できる健康資産とは何か
沖縄は本当に「長寿県」だったのか
まず数字を確認します。厚生労働省の都道府県別生命表から、沖縄県の平均寿命の順位を並べてみます。
| 年 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 1980年 | 1位 | 1位 |
| 1985年 | 1位 | 1位 |
| 1995年 | 4位 | 1位 |
| 2000年 | 26位 | 1位 |
| 2010年 | 30位 | 3位 |
| 2020年 | 43位 | 16位 |
男性を見てください。1995年に4位だったものが、2000年には26位まで落ちています。5年で22位分の下落です。
これは沖縄県内で「26ショック」と呼ばれました。県が作成する健康啓発の資料にも登場する、定着した言葉です。その後も歯止めはかからず、2010年に男性30位・女性3位となった際には「330ショック」という言葉まで生まれました。
そして最新の2020年、男性は43位(80.73歳)です。女性も16位(87.88歳)まで下がりました。
もうひとつ、気になる数字があります。2020年の沖縄県の男女差は7.15年で、全国最大でした。全国平均は6.11年ですから、1年以上の開きがあります。同じ土地に暮らしているのに、男性のほうが大きく落ち込んだ。ここに何かのヒントがありそうです。
沖縄は「特別な島」ではなく、日本で最も早く均一化した場所だった
では、何が起きたのでしょうか。
私の見立てを先に言うと、沖縄が特別だったから落ちたのではありません。日本の中で最も早く「どこにでもある食生活」になったから落ちたのだと考えています。
伝統的な沖縄食は、実は「サツマイモ中心」だった
沖縄の食と聞いて、多くの方は豚肉を思い浮かべるのではないでしょうか。ラフテー、ソーキ、アグー豚。「沖縄の人は豚をよく食べるから健康なんだ」という説明を聞いたこともあるかもしれません。
ところが、これは事実とは少し違うようです。
長寿研究で知られるWillcoxらのグループが、1949年の食事調査の記録を解析しています。それによると、当時の沖縄の食事の基盤にあったのはサツマイモ(甘藷)でした。肉類はごく少量で、豚肉は日常食というより行事の際に食べるものという位置づけだったと報告されています。
つまり、私たちが「伝統的な沖縄食」だと思っているものは、かなりの部分が後から作られたイメージだということになります。長寿記録を作った世代が実際に食べていたのは、芋と野菜が中心の、かなり質素な食事でした。
米軍統治期に、日本で最も早く食生活が変わった
沖縄には、本州にはなかった特殊な条件があります。1945年から1972年までの、米軍統治下という27年間です。
この時期に、缶詰の肉をはじめとするアメリカ由来の食品が大量に流入しました。ポーク缶が沖縄の食卓に定着しているのは、多くの方がご存じのとおりです。
今回私が現地で印象に残ったのは、観光客向けの高級店から日常的な価格帯の店まで、ステーキの店が街に溶け込んでいたことでした。私も鉄板焼きのステーキを楽しみましたが、おいしかったです。沖縄でステーキが親しまれるようになった背景には米軍統治期の影響があるとよく言われますが、この因果関係を学術的に示した資料を、私は見つけられませんでした。ですので断定はしません。
ただ、事実として言えることがあります。アメリカ由来の食が、特別なごちそうではなく、日常的な価格帯の外食として根づいているということです。これは何十年もかけて起きた変化であり、昨日今日の話ではありません。
変化が早く始まったぶん、結果が出るのも早かった。私にはそう見えます。
独自の食と全国共通の食が、同じ通りに並んでいる
今回、地元のスーパーにも寄ってみました。
沖縄らしいものは、確かにありました。じーまーみー豆腐が並んでいたのが印象的でした。落花生から作る、大豆を使わない独特の豆腐です。本州のスーパーではまず見かけません。
けれども、それは棚の一角の話でした。
街に出れば、ハンバーガーのファストフード店があり、焼肉店があり、寿司店があり、コンビニがある。本州と変わらない、というのが率直な感想です。「沖縄だから特別な食生活をしている」という前提は、少なくとも今の現地では成り立っていませんでした。
沖縄そばを食べ比べて考えたこと
冒頭の沖縄そばの話に戻ります。
豆腐入りのものとソーキそば。別々の店で食べたのですが、驚くほど似ていました。だしの印象も、麺の感じも、大きくは変わりません。念のため書いておくと、どちらもおいしかったです。不満があったという話ではありません。
ただ、食べながら考えていました。この均質さは、沖縄そばという文化が確立して洗練された結果なのか、それとも全国どこでも起きている標準化の一例なのか。
おそらく後者の要素が強いのだと思います。同じ食材が同じ流通に乗り、同じレシピ情報が同じ速度で共有される。それは沖縄そばに限った話ではありません。
「沖縄の秘訣」を探すのは、なぜ筋が悪いのか
ここからが、私がこの記事で一番伝えたいことです。
「沖縄の長寿食に学ぶ」という切り口の記事や本は、たくさんあります。ゴーヤー、海ぶどう、もずく、島豆腐。それぞれに研究はありますし、否定するつもりはありません。
ただ、こういうアプローチには根本的な無理があると私は考えています。
ブルーゾーン研究が捉えたのは、まだ食が均一化していなかった時代の沖縄です。当時の観察としては正確でしょう。しかし、その条件はもう存在しません。全国どこでも同じチェーンで同じものが買え、同じ情報が同じ速度で届く時代に、「この土地だけの健康法」という発想自体が成立しにくくなっています。
そして、もうひとつ大事なことがあります。
沖縄の短命化は、沖縄の失敗ではありません。日本全体に対する先行指標です。米軍統治という特殊な事情で変化が20年ほど早く始まっただけで、私たちは同じ道を遅れて歩いています。沖縄を分析対象として突き放して眺めるのは、筋違いだと思うのです。
参考までに、令和2年の都道府県別生命表から死因別の死亡確率を見ると、沖縄県の男性は肝疾患が2.61%で全国1位(全国平均1.38%)、糖尿病が1.30%で全国2位(同1.00%)となっています。生活習慣との関連が指摘される領域です。
肥満についても、令和3年度の沖縄県の調査では20歳以上の肥満者の割合が男性41.6%・女性24.8%でした。全国平均(男性33.0%・女性22.3%)を明確に上回っています。とくに30代から50代の男性は、およそ半数が該当します。
この年代は、まさに今この記事を読んでいる方と重なるのではないでしょうか。
肥満が何によって起きるのかについては、肥満、メタボの原因は① 本当の原因で詳しく書いています。あわせて読んでみてください。
では、日本人に共通する健康資産をどう運用するか
土地に依存しない、誰でも再現できる形で考えます。当ブログでは健康資産を食事・睡眠・運動・マインドの4つに分けて考えていますが(詳しくは健康資産を運用するをどうぞ)、ここでは食事・運動・睡眠の3つで整理してみます。
食事。特別な食材を足すことより、頻度と量の設計が先だと考えています。「何を食べるか」より「どれくらいの頻度で食べるか」のほうが、実際には効いてきます。おいしいものを禁止する必要はありません。私も沖縄そばもステーキも楽しみました。
運動。車社会は沖縄に限った話ではありません。地方都市であればどこでも、生活から移動が消えています。意識的に足さない限り、運動資産は目減りしていく一方です。
睡眠。この領域は地域差がほとんどありません。だからこそ、全国共通の解を作りやすい部分でもあります。睡眠と体重の関係については太ります!寝不足でも寝すぎでも。で触れています。
そして最後に、健康資産の性質について。
沖縄で長寿記録を作ったのは、戦前生まれの世代です。芋と野菜の食事で育った人たちでした。今の統計に現れているのは、数十年前の食生活の結果なのです。
これは資産運用とよく似ています。積み立ての効果が見えるまでには時間がかかり、逆に崩れたときの影響も、遅れてやってきます。
今の30代から50代の食生活が、30年後の統計になります。
まとめ
- 沖縄県男性の平均寿命は1985年まで全国1位でしたが、2000年に26位へ急落し、2020年は43位です
- 伝統的な沖縄食はサツマイモが基盤で、豚肉は行事食に近い位置づけでした
- 米軍統治期を経て、沖縄は日本で最も早く食生活が変わった土地になりました
- 独自の食は今も残っていますが、街の風景は本州とほとんど変わりません
- 「土地固有の秘訣」を探すより、誰にでも再現できる食事・運動・睡眠の設計に向かうほうが実用的です
健康資産は、どこかの土地の特産品ではありません。あなたが今日から運用できるものです。
やす先生でした。それではまた。
【参考文献】
- 厚生労働省「令和2年都道府県別生命表」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/tdfk20/
- 厚生労働省「令和2年都道府県別生命表」参考1-1 死因別死亡確率(男)
- 沖縄県南部保健所健康推進班「そうだったのね!? 沖縄県の現状 〜令和3年度沖縄県県民健康・栄養調査結果より〜」2023年
- 岡本悦司「沖縄長寿の神話 −戦前・戦後を通じた沖縄県民死亡率のコホート分析−」『厚生の指標』第69巻第13号, 2022年
- Willcox BJ, Willcox DC, Todoriki H, et al. “Caloric restriction, the traditional Okinawan diet, and healthy aging.” Ann N Y Acad Sci 2007;1114:434-455. PMID: 17986602
- 厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査結果の概要」
